今回のテーマは、「有効商談」です。
有効商談とは、その言葉の通り「良い商談」です。では「良い商談」とは何か、どのような定義か、そしてどうやって作っていけば良いのかをご説明します。
有効商談は「受注につながった商談」なのか
まず、有効商談という言葉は、インサイドセールスとフィールドセールスの対立が起こったときに、出てきやすい言葉ではないかと思います。
フィールドセールスがよくこんなことを言います。
「もっと有効商談を取って欲しいよ。最近のアポの質、全然いけてないんだよね」
では、インサイドセールスはどう思っているのか。
「せっかくいいアポを取ったのに全然成約できない。うちのフィールドセールスは全然ダメだね」
こういった会話が起こりがちではないでしょうか。
有効商談とは、多くの会社組織において「受注につながった商談」と考えられています。しかしながら、実はこの考え方は危険です。最終的な結果でしか有効商談か否かの判断がつかないのであれば、そのプロセスにおいて営業、フィールドセールスの責任は皆無ということになってしまいます。
「受注が取れたからいい商談、いいアポだった」
「受注が取れなかったからダメな商談、質の低いアポだった」
これは大きな間違いです。
フィールドセールスは、お客さんと会話したり、提案したりすることが仕事です。場合によっては打合せに出向いて商談をします。その活動において彼らの介在価値は何でしょう。
たとえば、商談することによって受注につながった。あるいは元々100万円の案件であったものが、営業が効果的な提案をしたことで200万、300万、1千万円の案件に膨んだ。このようなことを実現するために、フィールドセールスという役割があるわけです。
受注にならないから「質の低いアポを寄越した」ではなく、きちんとインサイドセールスとフィールドセールスが連携し、協力し合って、売上、受注目標を達成しに行く。ぜひその視点で営業に向き合っていただきたいと思います。
営業の仕事は「変化を作り出すこと」
では、「有効商談とは何か」と「どうすれば有効商談を実現できるのか」、これら意識の部分について解説します。
有効商談には、冒頭にお話ししたような「受注につながる商談が有効商談だ」という側面はもちろんあります。あくまで営業の最終成果は受注なので、「受注につながったからいい商談だった」という発想は間違ってはいません。とはいえ、営業はお客様から時間をいただいて商談・提案をするのですから、「良い提案ができた」「良い会話ができた」といった部分にもフォーカスを当てていくべきです。
商談の機会をもらっているのに提案できない、会話もできない。営業の現場では、そのようなことが実際に起こり得ます。その原因は、たとえば「無理やりなアポイント」です。
「とにかく会っていただければ」
「名刺交換だけでも」
「資料だけでもお渡しさせてください」
このようなアポでは、ゴールは会うこと、名刺を渡すこと、資料を渡すことになります。こちら側が何かをして完了したら、相手にとっての「商談」は終了します。
アポを取る側は「会えば5分、10分くらい話はしてくれるだろう」と期待しがちですが、本当に名刺交換だけで終わるケースもあります。私も、わざわざ訪問までしたのに「名刺交換だけでいいって言われたから」と言われたことがありました。このようなアポの取り方では会話も提案もできないので、有効な商談につながっていかないのは必然です。
有効商談かどうか否かの判断軸は、売れたか否かではなく、「作れた商談なのか」ということです。何を作るのでしょうか?ポイントは「お客様に変化を作り出すこと」です。
お客様に作り出すべき4つの「変化」
商談で営業がお客様にどのような変化を作り出せたら有効な商談と言えるのか、考えてみましょう。
一つ目は「課題意識」です。お客様がどこに課題を感じていて、どんな理想を掲げていて、それに対してどんな不足を感じているのか。これをお客様の中で明確にすることが出来れば、行動変容の確率は当然上がります。
二つ目は「優先順位」です。お客様は様々な課題を持っていますが、「たしかにこれは早く取り組んだほうがいい」、「これは放置していたら大変だ」という意識の上での優先順位を上げていくということです。
三つ目は「興味関心」です。たとえば、最近ならChatGPTのようなAIの取り組みが一気に多くの人の興味関心をさらってしまった感があります。このように、お客様の興味関心の対象を変えることです。
最後の四つ目が「安心と信頼」です。あなたは「怪しい」「怖い」「何か企んでいるのでは?」等と思っている相手に心を開いて会話しますか?しませんよね。商談の前にお客様に安心と信頼を与えなければなりません。
営業の仕事は「お客様に変化をもたらすこと」です。それは、気持ちの変化では足りません。最終的にはお客様が求めている未来を実現していくことです。今ないもの、今できていないもの、もしくは今できているけれどより効率的に実現したいもの、これらの実現を支援するのが営業であり、実現するために商品・サービスを届けて利用していただく、その対価をいただくのが営業です。
そういった目線で見た時に営業がしなければいけないことは何でしょうか。人は感情で動く生き物です。まず相手の頭の中、気持ち、マインドを変えていくことが出来なければ、当然ながら良い商談、有効商談にならないということです。
だからこそ、課題意識、優先順位、興味関心、安心と信頼、この四つの変化を確実にお客様にもたらす必要があります。様々なことをお客様は考えています。様々な状況を抱えている中に、これら四つの変化を与えていく。インサイドセールスからフィールドセールスに、こういった会話ができる関係、状況を作った上で商談をトスアップできたのか、バトンを渡すことができたのかどうか。ぜひこの視点で考えてください。
結果的に変化は起こした。しかし、選ばれたのは当社の商品ではなかった、こういったケースは起こり得ます。けれども、お客様に興味関心を持っていただけた、安心と信頼を提供することが出来た、また、お客様の課題意識がたとえば「今は無理だがいつかはやらなければいけない」「今は予算がないが3ヵ月後なら検討できる」となったなら、これは「良い商談」と言えます。
「今、お金を払ってでも問題を解決したい」というお客様はそう簡単に見つかりません。ネットで検索すれば情報は出てくるし、SNSで質問すれば親切な誰かが答えてくれる、そんな便利な時代に「今すぐ客」を探すのは困難です。インサイドセールスが丁寧にコミュニケーションを取り、電話をかけたりメールを送ったり、そういった行動の積み重ねをした中でやっと生まれたアポイントならば、「受注にならなかったのはアポの質が悪かったんじゃない?」といったスタンスでインサイドセールスを責めるのはやめましょう。これが今日、お伝えしたかったポイントです。
有効商談を作っていくためには変化を与えることが大事です。ここまではその解説をしました。
「聞く・話す・決める」を積み重ねて合意形成を
では、有効商談を実現するためにどのような意識で行動すれば良いのか。基本的には、やることは三つしかありません。「聞く・話す・決める」です。
営業の商談はこの繰り返しです。営業に限らず、コミュニケーション自体がそうとも言えます。ただ、ビジネスにおいてのコミュニケーション、すなわち商談は、「決める」が非常に重要になります。
プライベートであれば「聞く」「話す」の言葉のキャッチボールだけでOKですが、営業はあくまでお客様に成果、変化を与えなければなりません。お客様に動いてもらわなければ成果とは言えない。だからこそ、「決める」という意識をしっかりと持つことが必要です。
この「決める」というアクションを起こすときに具体的に意識していただきたいのが「合意形成」です。営業は「ラポール」「ヒアリング」「プレゼン」「クロージング」の四つのステップが大事だという話をよくしますが、ここではもう少しポイントを絞ってご説明します。
たとえばヒアリングにおいて、「今お聞きした話を私はこのように認識していますが、これにずれや漏れはないですか」と確認しましょう。お客様が「はい、その通りです」と答えるなら、これが合意形成です。
ここで、合意形成できたものに対して、「ではこういう方法はどうでしょうか」「ここがもっと課題ではないですか?」と、ディスカッションをしてください。「聞く」と「話す」のキャッチボールの回数を増やしていって、「ここまでの内容をまとめると、このような方法や優先順位、やるべきことが見えてきました。この点に関してはいかがでしょうか」と聞きましょう。「その通りです」と回答が得られれば、また合意形成が取れたことになります。
ヒアリングした内容の認識の合意を取り、そしてディスカッションでお互いに意見をぶつけ合い「やるべきこと」「やらなければいけないこと」「予算感」「進め方」といった点も合意をいただきましょう。ここが大事なポイントです。
そして最後に、「こういったことを我々にやらせてください」と提案する。ここに合意がいただけたら、BANT情報、すなわち予算はあるか、決裁の進め方は間違いないか、ニーズにズレがないか、導入時期は間に合うか、これらを整理して初めて「これでいきましょう」と契約書にサインをいただけます。これで合意形成が完了します。
「聞く・話す・決める」、この三つが正しくできているかどうか。有効商談ほど、この「聞く・話す・決める」が進んでいます。ダメな商談は「話すだけ」が多いと言えます。お客様が一方的に話して終わるというように、「決める」に進まないケースが多々あります。だからこそ、営業はトスをもらったら「決める」商談にする、様々な認識を合わせていく商談にするのだという意識をもって、せっかくいただいたご縁を大事にしてください。
誰しも商談機会は欲しいはずです。営業は常にお客さんと話したい、提案したいと思っています。ただし、意識するべきことは、有効な商談にすること。そのためにやらなければならないことは「変化を作り出すこと」。そのためにも、課題を明確にする。優先順位を定める。興味関心を持ってもらう。そして、安心と信頼感をもってもらう。これを実現するために、「聞く・話す・決める」のステップでコミュニケーションを取ることが重要になります。
ぜひこれらを意識しながら、今日の商談を有効商談にしてください。アポイントを取るインサイドセールスは、そういったことが出来る状況を作るために、「こういうことがしたいんです」ということをお客様に伝えて、フィールドセールスが営業しやすい状況を作ってください。
受注して売上目標を達成する。そのために、フィールドセールスとインサイドセールスが仲間として一緒に頑張る。そんな営業組織が増えてほしいと強く願っています。
▼ラポール、ヒアリング、プレゼン、クロージングの流れはこちらで確認!
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これからの営業に必要な意識
この記事の監修者
株式会社営業ハック
代表取締役
笹田 裕嗣
営業代行事業を始め、「売れる営業組織」へと変革するためのあらゆる支援を行っています。
弊社独自のセールスメソッドを用いて、停滞する営業組織の改革から新規営業組織の立ち上げまでトータルでサポートいたします。今までご支援させていただいた企業数は100社を超え、主に中小・零細企業のあらゆる業種で成果を出し続けています。