営業において「交渉力」は必須であると言っても過言ではありません。利害関係がある相手との間で、合意を目指して意見をやりとりする場面は、営業であるならば誰しもが直面します。そのなかで、交渉力をあげるための方法が書かれた【影響力の武器】という本があります。
今回はこの本から、交渉力をあげる原理についてご紹介していきたいと思います。
目次
交渉で大事な6つの原理
ではこれから1つずつ紹介していきます。この【影響力の武器】という本には、交渉術として意識しておきたい原理が6つ含まれています。
交渉力を上げる原理①返報性
返報性とは具体的に何を指すのでしょうか。一言でいえば、
人はお返しをしたい生き物である
ということです。何かをしてもらったならば、それに対してお返しをしたいという思いを人は持っています。
実際の例を考えてみましょう。スーパーマーケットの試食コーナーにも返報性の原理が適用されています。実際に店員から勧められて試食した後、「食べさせてもらったのだから、買わないと悪いよな」という気持ちが芽生えることがあるのではないでしょうか。これは無償で商品を貰ったことに対して返報性が働き、何かお返しをしたいという気持ちが生じているからです。その他にも、洋服売り場での試着やSNSのいいね機能にも返報性は使われています。
返報性は様々な種類に分けられます。
- 好意の返報性=相手から受けた好意を返したくなる
- 敵意の返報性=向けられた敵意を返したくなる
- 譲歩の返報性=相手が譲ってくれたのだから、自分も譲ってあげよう
- 自己開示の返報性=相手がオープンな態度で接してくれると、自分も相手に心を開きやすくなる
いずれにしても共通するのは、「与えられたもの・受け取ったものをお返ししたくなる感情」が人間には存在するということです。
交渉力を上げる原理②一貫性(コミットメント)
YESの法則、アグリーの法則とも呼びます。どういうものかというと、
「人が決めたこと、言ったことに対して一貫させたい心理を持っている」
ということを指します。自分が一度決めたことには自分で逆らうことができないという心理が人間にはあるのです。
例えば、なかなか商品を購入してくれない顧客と雑談をしていたとしましょう。そこで、「最近、御社の業務効率化はできていますか?何かお悩ありますか?」などと話題を振ってみたとします。仮に「そうだね。今のシステムが不調でね」と発言させることができれば、一度「システムが不調」と言ってしまった手前、その後発言を否定できにくい空気が生まれます。そのうえで提案することで、否定することが難しく、了承を得やすくなります。
この一貫性の原理は、
- コミットメント
- 公共性
- 労力
この3つの要因のもとに発動すると言われています。まずその議題に関与し、何か意見を述べることで覆しづらい前提が生まれます。そして多くの人が関わる状況であることで、より一貫された言動を強いられるようになります。さらに時間や手間がかかっているときほど、「これだけ頑張ったのだから自分の意見を価値のあるものにしたい」と意見を一貫させたい思いがより強くなるのです。
交渉力を上げる原理③社会的証明
バンドワゴン効果とも呼ばれます。
「多くの人が動いているときに、その現象が正しいと思い込んでしまう心理」のことです。
人間は、何かを決定するときや行動をするときに他人の行動に影響されてしまいます。例えば、行きたいと思っていたお店があまりにもガラガラだと、入るのを少しためらってしまったり、逆に行列のお店が気になってしまったりすることがあるのではないでしょうか。
また、新品の本の多くには帯がついており、そこには「ベストセラー」や「10万部突破」などと書かれていることがあります。これはこの本が人気であり、他の人も読んでいるというアピールをすることで、購買意欲を掻き立てているのです。みんなが買っているものをつい手に取りたくなってしまう。このことを社会的証明の原理と言います。
交渉力を上げる原理④好意
基本的に、好意を持っている相手からの意見は受け入れやすくなります。私達の対人関係の中で「何を言うか?」ではなくて、「誰が言うか?」の方が重要視されているケースがあるというのが4つ目のポイントです。私達は、相手をより知っていたりして信頼出来る人や、自分が好意を持っている人の言う事に、心が動かされるのです。
同じ商品で、同じ内容の説明を受けたとしたら、私達は知らない人や信用出来ない人からよりも、自分が好意を持つ人、信頼出来る人から購入したいと思うのではないでしょうか。
このことを好意の原理と言います。
交渉力を上げる原理⑤権威
ミルグラム効果とも言われます。
これはつまり、物事の実際の信ぴょう性にかかわらず「自分より偉い・凄い」という人の意見は正しいと思い込んでしまう心理のことです。
この原理はWebマーケティングなどで活用されています。例えば、自分の売りたい商品やサービスをその分野についての資格を持つ専門家に監修してもらい、その専門家のプロフィール(資格・肩書き・実績・本人の画像など)をWebサイトに記載することでターゲット顧客の信頼度を高めているケースがあります。なぜなら、「この専門家が監修した商品やサービスならば間違いがない」と感じさせることができるからです。また、受賞歴を記載することで権威への服従原理を作用させているケースもあります。
交渉力を上げる原理⑥希少性
- 数が少ない
- 限定的
こういったものには価値がある。こう思い込んでしまう心理のことをさします。「老舗の料亭が作るお節料理、限定30個」「閉店セール」通販番組などの「今から30分以内のお申込みに限り」という文言など、今、買わないと、もう買えないかもしれないと思わせることで、実際に希少なものではなかったとしても、欲しくなる心理が人間にはあるということです。
合理的な決定をするために
後半で複数回、「思い込む」と述べました。つまり、人間というのは自然と思い込んでしまう生き物であるということです。極端な話、常に合理的で間違えない決定するためには人間に決めさせないほうがよいと言えてしまいます。
人は思い込みのなかで決断をしています。
逆に言えば、人は思い込みをするものであるということを念頭にコミュニケーションをとることで、有利に話を進めることができるということが、この本には記されていました。
▼交渉において人の心をつかむ方法についてはこちらでも解説しています。
今すぐできる!営業で顧客の心をつかむ方法7選
営業が交渉力を上げるうえで特に重要な要素
6つ原理をあげましたが、このなかで営業に特に必要なものが3つあります。
- ①返報性
- ②一貫性
- ③好意
交渉力を上げる①営業における返報性
営業や販売において返報性は活用できるポイントが数多くあります。よくあるパターンとして実際に活用されている例をあげると、
- 無料サンプルを配る
- 通販などでの「全額返金保証」
こういったものがあります。共通しているのは、貸しを作っているということです。貸しをつくることにより、返報性を働かせ、商品を買いたくなるように誘導しているケースが多々あります。営業や商談においてもこの返報性は重要です。成果を出すために、お返しをしてもらえるためには何をすべきなのかを念頭に置いておくことが必要になります。つまり、
「自分がやってほしいことは先に相手にやってあげる」
ということです。
お客様からありがとうと言われたいのならば、こちらからお客様に感謝を伝えることが必要です。お客様に話を聞いてほしいのならば、まずは自分がお客様の話に耳を傾けなければいけません。ありがとうと言われるためにはいい提案を持ってこなければならない、とは必ずしも限りません。このことを意識いただきたいと思います。
交渉力を上げる②営業における一貫性
いい提案をすれば商品をお客様は買ってくれると多くの人が考えがちです。しかしそうとは限りません。実際は、良い提案をしたとしても、相手の思い込みによって意思決定がずれていってしまいます。そうなると、求めている結論にはなりません。そのために、自分が求めているゴールから逆算をし、ヒアリングを重ねて、小さな「YES」を貰っていくことが重要になります。
例えば、
「本日は、コスト削減のお話ができればと思い、お時間を頂戴致しました。電話でお伺いしましたように、貴社はいまコスト削減に取り組んでいる、ということで宜しいでしょうか?」 →YES
「こんなコスト削減の商品があったら、値段はともかくやってみたいと思いませんか?」→YES
「…なるほど、ではこういう機能があったら、やりたいということでよろしいでしょうか?」→YES
「では、この商品ぴったりですね」→ YES
このように、ヒアリングをもとに、一貫性を働かせることができます。ヒアリングは相手の課題をとらえるためのものですが、このような側面もあるということを念頭に置いていただければと思います。
交渉力を上げる③営業における好意
好意を持ってもらうためには接触回数を増やすことが重要です。「単純接触効果」という言葉があります。これは、
- 会う回数を重ねる程人は相手に好意を持つ
- その人の人となりを知れば知るほど、相手に好意を持つ
- 好意を持っている人からのお願いには、積極的に応えようとする
こういった人間の心理を表したものです。営業において、好かれてから提案することは重要なことです。単純に話を聞いてもらえる確度が上がるからです。また、最初の段階では警戒心を持たれているため、好意を持ってもらえるようにコミュニケーションをとることは必須と言えるでしょう。
交渉するときに大事な原理まとめ
今回の内容を1枚の画像にまとめるとこのようになります。
この内容が自分の提案のなかでできているか、ぜひセルフチェックしてみてください。
どんなに良い提案であっても相手は動かない可能性があります。そのことを念頭において、交渉力に磨きをかけていきましょう。
▼営業力についてはこちらでも解説しています!
営業力とは何か?
▼YouTubeでも発信しています。
他にも有益な情報発信を続けておりますので、見てくださいね。
提案力がある営業とは? – YouTube
この記事の監修者
株式会社営業ハック
代表取締役
笹田 裕嗣
営業代行事業を始め、「売れる営業組織」へと変革するためのあらゆる支援を行っています。
弊社独自のセールスメソッドを用いて、停滞する営業組織の改革から新規営業組織の立ち上げまでトータルでサポートいたします。今までご支援させていただいた企業数は100社を超え、主に中小・零細企業のあらゆる業種で成果を出し続けています。