営業という仕事は、コミュニケーションそのものです。相手の感情を、悪くいえばコントロールするという一面もあります。期待していただく、期待をされすぎないようにする、そして「この人と関わりを持ち続けたい」と思われるように、相手の気持ちを考慮しながら会話を続けていく。これが営業の仕事であるコミュニケーションです。
そして、自らの成果と相手への貢献が重なるのが営業の仕事なので、顧客満足と売上受注をしっかり獲得しなければなりません。コミュニケーションは相手がいて初めて成立します。
本記事の前半は、成果と貢献の両立ができる相手をいかに見極めるか、後半で、いかに関係を進化させ強化していくかを説明します。最後にセミナーでの質疑応答を採録しています。
目次
営業するべき相手とは
会話においては、まず相手のリテラシーレベルを把握しておく必要があります。「ITリテラシー」といった言葉をよく耳にしますが、リテラシーとは情報の内容を正しく理解し、解釈し、活用する能力です。目の前の相手はこちらの言ったことをどのように理解して、解釈して、活用するのか。ここで、相手のそれが正しいか正しくないかはいったん別物です。理解は間違っていてもその人にとって満足感が高いならば、まず前提としてそれを受け入れましょう。ここがスタートラインです。
リテラシーが高いというのは、ベネフィットを享受できている状態です。リスクも踏まえた上で、商品やサービスから得られる恩恵を受け取り、使えている状態です。画像では+1としていますが、戦略的に意図をもってその商品やサービスを使わないという判断もあります。次に、その商品やサービスを使っていないというのはリスクの放置です。問題や課題に手を打っていない、もしくは無為に商品やサービス使ってリスクやコストが垂れ流しになっているのはプラマイゼロです。マイナスなのは無知・無利用という何も知らない状態。その下はネガティブな情報に踊らされて誤解している状態です。このような、相手のレベルによって向き合い方は変える必要があります。
解消するべき「4つの不」という視点があります。「不信」「不要」「不適」「不急」です。相手がこれらを持ち出すときは、ヒアリングによってその根拠を探る必要があります。ヒアリングはただ情報を聞くだけではなく、なぜそのように考え、なぜその考えに至ったのか、そのプロセスもしっかりと理解して関わっていくことが重要です。
営業すべき対象は、まず課題感と優先順位を持っている相手です。そして第0印象、相手が事前に持っている何らかの印象を意識したコミュニケーションを実行しましょう。そして、「お友だち付き合い」が営業ではありません。あくまでビジネスパートナーですから問題や課題があれば適切に議論ができる、そんな関係を築いてください。
営業コミュニケーションとは
相手からどう見られているか
営業のコミュニケーションは、まず相手が何を見ているのかを把握することから始まります。相手は営業マンに関わる価値とコスト、つまりコスパは合うかどうか、コスト以上のパフォーマンスを得られるかどうかを見ています。どんなに大きな成果が期待できようと、ストレスやコストがあまりにも大きければ避けられます。
「絶対に損させないのでやってください」「お金はかかりませんから、何でやらないんですか?」といったクロージングをする営業マンがいます。それでも相手が「やらない」場合、その理由は何でしょう? それは、たとえお金がかからなくても、自分にかかる労力や気持ちやストレスを想像して「面倒くさい」が勝るからです。
営業マンなら「『面倒くさい』くらい乗り越えてくださいよ」と言いたいところですが、ものごとの優先順位は人それぞれです。たとえば、YouTubeを1日5時間見るのを楽しみにしている人にとっては、その時間が奪われないことが何よりも大事でしょう。提案は相手の大事なものを軽視していないか、この点も重要です。
コミュニケーションはコストである
そして、基本的にコミュニケーションはコストです。営業マンは相手から時間やお金を「いただいている」認識を持ってください。会話の相手に「この人に時間を割いてもったいなかった、損したな」といった気持ちが生まれるとしたら、その原因はコミュニケーションのコストが大きかったからです。
コミュニケーションには「認知コスト」「取得コスト」「理解コスト」「対応コスト」、これら4つのコストがかかります。認知コストとは、相手の言葉に対して気づくためにかかる時間や手間です。取得コストは、相手の言葉を受け取るためにかかる気持ちや時間です。さらに言われたことの内容を理解するための理解コスト、理解した上でどんな行動するかにつなげる対応コストがあります。
最終的に対応コストを支払ってもらうこと、すなわち契約書にサインをもらうことが営業の仕事です。取引が始まってまだ料金はかかっていなかったとしても、たとえ成功報酬であったとしても、営業マンはお客様から時間というコストを必ず奪っています。この意識を持てているかいないかで営業の成果は大きく変わります。
営業コミュニケーションのステップ
コミュニケーションはコストである。この前提を踏また上で営業の4ステップをご紹介します。「ラポール」「ヒアリング」「プレゼン」「エンゲージメントまたはクロージング」です。営業マンがお客様から「督促されている」「利用されている」と思われてしまう理由は、関係が成熟していない、条件の整備が整っていない、判断材料が足りない、条件があっていない、こういった背景があるにもかかわらず、「買ってください」「お願いします」という形で迫られるところにあります。お客様にとってこのストレスは大きいはずです。
人間は自分の行動を制約されることに強いストレスを感じる生き物です。これは、心理的リアクタンスと呼ばれます。行動を狭められたくない、自分が思った通り自由にやりたい、これが人間の本質であり本能です。かと言って、お客様に好きなようにしてもらったら喜ばれるかというと、それはそれで違います。御用聞きをすればすべてのお客様に満足感を与えられるわけではありません。
営業マンと「会う理由」
わざわざ会って話をしてくれるお客様が求めていることは、新しい行動、新しい成果、あるいは変化といったものです。行動とは、動機、能力、きっかけの掛け算です。動く理由、できる能力、そして始めるきっかけ、これらを常に提供してくれる、新しいチャンスや変化の材料を与えてくれてこそ、営業マンは「会って良かった」と思われます。
お客様から言われたことを言われた通りにやる。それは、とりあえずお客様を満足させるでしょう。しかし、「お金を払ったんだからやってくれて当たり前でしょ」と、そこで終わってしまう可能性が高いという側面もあります。
現代の営業の一番の敵は、インターネットです。ネットで調べれば情報が溢れています。そんな時代なので、お客様は商談で自分と違う視点や知らなかったこと、自分に見えていなかったことを教えてもらいたいと思っています。人間は基本的にわがままです。コストはかけたくないし、面倒くさいことはやりたくありません。しかし、新しい情報や面白いトピックスがあれば持ってきてほしい。単なる情報提供であれば、グーグルで検索すれば、インスタでタグれば、YouTubeで動画を見ればOKです。だからこそ、営業マンに期待するものはきっかけです。変わるきっかけを与えてくれる人にこそ会いたいということです。
好かれる前に嫌われない工夫
ただ、きっかけを提供しようとしても伝わらない可能性があります。それは、営業マンが嫌われている場合です。たとえば、スタンスが合わないときです。スタンスがずれていると、関われば関わるほど溝が深くなります。お互いが歩み寄れる関係性や状況が作れているかどうか、ここがまず大前提です。
その上で、コミュニケーションで同じ方向を向いているか、ベクトルが合っているか、そしてリテラシーが歩み寄れているか、その上にテクニカルスキル、すなわち専門性を持てているかどうかといったポイントがあります。「会って良かった」と言ってもらう前に「この人には会いたくない」と言われない工夫が大事です。
好かれる努力の前に嫌われない準備。あなたのコミュニケーションは相手にストレスを与えていませんか? 面倒くさいと思われたら、お客様は避けようとします。明確に嫌ではないまでも、なんだかモヤモヤする、何となく違う気がする、そのような感覚を与え続けるとモヤモヤは蓄積し、いずれ爆発します。するとどうなるでしょう? 音信不通です。人はわざわざ「あなたを嫌いです」と教えてはくれません。
相手のストレスと違和感を解除する、相手をきちんと見て会話する、この点を意識してください。コミュニケーションでストレスやモヤモヤを感じるポイントは、人によって大きく異なります。それだけに、相手をよく観察して会話をすることが重要です。
心理的安全性がないと人は不安を感じます。こんなことを言って無知だと思われたくない、無能だと思われたくない、邪魔をしていると思われたくない、ネガティブでやる気がないと思われたくない。わざわざ話すことでネガティブな印象を与えるぐらいなら黙っていたほうが得というのは、戦略的に正しい判断です。ただ、営業マンはお客様に本音や事実を教えてもらえなければ役に立つ提案はできません。だからこそ、敵ではなくパートナーの認識を持ってもらうことは、絶対に避けられない重大なポイントです。
評価される営業マンはベネフィットを提供できていて、 次に継続的にコミュニケーションが取れています。定期的に連絡ができているのは当り前なのでプラマイゼロ。たとえば、相手はメルマガの読者だからナーチャリングできている、といった捉え方は危険です。届いたメールは迷惑メールボックスやゴミ箱に直行かもしれません。「連絡ができる」は最低条件であって、相手から反応や応答がもらえて初めて関係は強化できていると考えてください。
リアルタイムで双方向のコミュニケーションが取れない、たとえば電話をかけても出てもらえない、訪問したものの出て来てもらえない。こういったケースは当然ながらマイナスです。もしもその商品やサービスにネガティブな決め付けをされているとしたら最悪な状態です。改めて今、自分は相手とどういうレベル感なのかを再確認してください。
対話のテクニック
先に、営業マンが提供するべきものは「視点」と「気づき」と述べました。視点と気づきを提供するために必要なことは、ヒアリング、すなわち問いの投げかけです。お客様の本質を理解するだけでなく、お客様が自分のことを新しくラベリングできる、再評価できるコミュニケーションの手法を説明します。
これはSPIN話法と呼ばれる対話の手法で、定義を変えていく、認識を変えていく、そのために気づきや考える材料を提供するというものです。人は自分が言ったことを否定されれば不愉快な気持ちが生まれます。そこで、考える材料の提供と問いかけ、そして フィードバックをもらうことが必須です。たとえば、「この数値が平均値、これが考える材料です。この数値に着地している理由は、先ほど〇〇社長がおっしゃっていたリストの問題があると思います」。このようにすると、「なるほど、そういった視点や見方もありますね」と理解していただける可能性が高くなります。
また、その考えに至った前提は何かという点も重要です。相手の本質、すなわち考えが生まれた理由や背景を確認できているのかどうか、そのためにはSPIN話法が役立ちます。
同じテーマでも問いを変えてみる。これも大事なポイントです。質問を変えることによって、相手の認識を把握することが可能になります。「好きな食べ物は何ですか?」「カレーです」。この会話から、この人が好きな食べ物はカレーだと断じるのは短絡であり危険です。「好きな食べ物はカレーです」「では、好きなご飯ものは何でしょう?」「ご飯ものなら天丼ですね」といった展開になったら、カレーライスよりも好きなものがある可能性が出てきます。そこで、また別の質問ができます。
視点を変えることによって相手の発言が正しいかどうかを検証する。そして、「なぜ」の問いかけによってその背景や根拠を確認していく。このようなコミュニケーションを心がけてください。
問いかけの方法には「If話法」も有効です。「もし使うとしたら誰でしょう?」「もし使うとしたらいつからですか?」こういった「If:もしも」を投げかけることによって、相手の思考のベクトルを変え、制約条件を取り払うことが可能になります。
基本的に人間は何かの制約の中で考えています。先日、弊社スタッフから「今、商談が終わってから議事録を書くのに30分かかっています。どうすればこの時間を短くできるでしょうか」という相談がありました。この人は、商談が終わってから議事録を作るという前提で考えています。そこで、「もし、議事録を商談中に作るなら」と考えれば、時間は短縮できます。そればかりでなく、商談中にお客様にそれを見せて内容の確認を完了させることもできます。前提を変えることによって違った視点や思考、アイディアが出てくるので、If話法をぜひ活用してください。
営業マンが介在する理由
ストレートに書きましたが、嫌われる営業マンはさっさと忘れられます。嫌われたら相手の中で優先順位は下がり、もう問い合わせや相談が来ることも第一想起されることもありません。だから、嫌われない工夫が必要なのです。そのために、現状を解決する、将来の展望を見直していく、進捗を共有する、こういったコミュニケーションを図る必要があります。なぜなら、その会話の先にあるものを考えてもらい、提供しなければいけないからです。
お客様がわざわざ時間を割いて面談していただける時、営業マンがなすべきことは、どんな経済価値を与えられるかを考えることよりも、まず自分の介在理由、すなわちお客様と関わる理由をしっかりと伝えることです。
実は、1on1という上司と部下のコミュニケーションと、営業の商談電話やミーティングは同じです。相手と向き合って会話する時、自分なりの理由を持っているかどうか。これをぜひ意識してください。
成長支援ではなく成功の支援が営業の仕事です。つまり、「御社にはこのように事業成長していただきたい」「御社の社員の方々にこうなっていただきたい」ではなく「こういう結果を得ていただきたい」「その手段として成長が必要です」と言えるかどうかです。
販売するものが研修商材でも育成のプロジェクトでも、相手が求めている成果を出すために今自分に何ができるかという前提で会話ができれば、その営業マンは信頼されます。成長という計りづらいものを指標にしてしまうと、お客様にとっての関わる意味から遠ざかってしまいます。
お客様から営業が求められていることは、基本的に利益の創出です。つまり、売上を上げるかコストを下げるかなので、それに近いものから会話をしていくべきでしょう。もちろん担当者によってはKPIや指標値が経営の上位概念から下りてきているケースはあります。しかし、本質的にKPIを追いかけるということは売上や利益のアップにつながっているので、成長ではなく成功に近づける支援を提供することが重要です。
組み合わせを間違えると会話が成立せず成果も出せません。なぜこの人なのか、なぜこの商品なのか、なぜ今このタイミングなのか、なぜこの取り組みなのか、費用対効果は合うのか、これら全部が正しい組み合わせで一貫していなければ、相手は会話に違和感を持つでしょう。違和感があるものは依頼できません。
リストの選定時点で前提が決まります。リストを作ると、何らかの共通点のある人たちが集まります。たとえば、こういう先入観や印象を持っている、競合からこんな提案を受けている、こんな体験をしている、といったことです。相性が良さそうだから会いやすい、このような判断もできるはずです。
人は思い込みの動物
なぜここまで言い切れるのかというと、人生の99%は思い込みだからです。そのテーマで書籍があるくらいですが、決め付け思考、欲望、感情、自己意識、このような自分に都合が良い考え方で、人は自分の周囲の情報を固める傾向があります。相手の思い込みがどうにもならないほど凝り固まったものならば、自ら身を引くという判断も構わないと思います。
「相手は思い込みをしている」を前提にして営業を組み立てることで、営業におけるコミュニケーションのストレスを減らすことができます。多くの営業マンは、コミュニケーション能力を高めて誰にでも営業ができる姿を目指しがちですが、関わって価値貢献ができる、ストレスを与えない、そして自分自身もストレスを感じない、そういった営業を目指すべきです。そう考えれば、誰に営業するのかは非常に重要な観点と言えるでしょう。
前述した通り、現代はインターネットでの情報収集が全盛です。相手がどんな情報に触れている確率が高いのか、普段からどんな情報に関わっているのか、この点にはアンテナを張っておくべきでしょう。
嫌われる営業マンの人物像
相手に思い込みがあることを前提として、営業マンが嫌われない工夫として何をするべきでしょうか。嫌われる営業マンの多くは、距離感と自己評価を間違えています。距離感が近すぎても遠すぎても相手にとっては「面倒くさい」。たとえば、まだ親しくないのに馴れ馴れしい態度や物言いをされる、逆にいつまでも馬鹿丁寧に「〇〇様」と呼ばれる、これらはいずれもストレスです。営業マンの自己評価が高すぎると話を聞いていてうんざりします。逆に低すぎるとフォローしなければいけなくなるので、どちらにしても「面倒くさい」。
相手にストレスを与えているということは、負担を強いているということです。誰しもお金を払って負担がかかる人と仕事をしたくありません。上の画面に赤字で書きましたが、人は面倒な相手にわざわざそう思う理由を教えません。関係は自然消滅してなくなってしまうだけです。
相手との距離感や自己評価がどのように捉えられているのか、直接教えてもらえる可能性は低いかもしれません。教えてくれる相手でなければ、自社内で同僚に聞くなどして認識を持つと良いでしょう。同時に、自分が世の中や社会と認識が合っているかどうかも意識しておくべきです。
もう一つ、嫌われる営業の特徴として「欲張りすぎ」があります。たとえば、ヒアリングをするための電話で、「あわよくば」その場で受注が取れないか探りに行って興ざめされる。あるいは、電話での相手の反応が良かったので「あわよくば」と次のステップを省略しようとする。気持ちは分かりますが、ショートカットして最終的に費用対効果が合う営業活動になるかどうか想像してください。
順を追って営業プロセスを設計している会社であれば、そのプロセスを敷いている理由があるはずです。たとえば、「この段階でこの情報を伝えておかないと後々トラブルになる可能性がある」といったことです。多くの会社は、経験則から自社の業務フローの精度を高めています。営業マンがやるべきことを着実に進めることで、最終的に安定した成果、継続する成果、そしてストレスコストの低い取引につながります。
お客様の行動を引き出すには
繰り返しになりますが、相手の行動を引き出すのが営業です。AIDMAモデルならば、知ってもらい、興味を持ってもらい、欲求が生まれ、そして記憶に残って行動につながります。 AISASモデルでいけば、知ってもらい、興味が生まれて、検索という行動を踏み、比較を経て、自分たちを選んでもらい、これに納得すればシェアしてくれます。いきなり「知ってくれたらシェアしてください」と促すのは「督促」になって嫌われます。
一人前の営業のステップを整理するとこうなります。
一つ上の画像を、お客様に提供するべき情報を軸をに表現しました。商品も知らず困ってもいない相手に対しては、まずトリガーとなる商品名を知ってもらうことから始まります。名前だけでも知ってもらえれば、困った時に思い出してもらえるかもしれません。商品名を知ってもらった後は、事例やビフォーアフターの情報、関係構築のために相手のお役立ち情報やニュースを伝えていきます。相手が前向きな検討フェーズになったタイミングでキャンペーン情報やより詳細な商品情報を伝えれば、相手の行動を引き出せるという流れです。
相手が悩んでいるのであれば、引き続き情報提供という形で関係が切れないようにします。自分が情報を伝えるとき、今相手はどのタイミングなのかを確認してください。そして、このタイミングならばどの手段でどんな情報を伝えるべきなのか、これらを意識して営業を進めてください。
情報の価値はお客様が決めます。ただし、営業側にも価値を感じてもらいやすい訴求軸はあります。網羅性とは、一つの情報を見れば関連する情報が全てまとまっているということ。検索性とは、見つけやすいこと。専門性とは、そこでしか得られないこと。経験とは、経験者しかわからない情報。新規性とは、リアルタイムの今すぐの情報。希少性とは、お金で手に入らないような情報。面白さは、感情的なインパクトです。
相手にとって価値ある情報かどうか、そしてタイミングが合っているかどうかを考えてコミュニケーションを取らないと、リードナーチャリングも自己満足に終わってしまいます。
現代は、情報提供は当り前、むしろ提供しなくてもお客様自身が自発的に情報収集してくれる時代です。したがって、ただ情報を送って終わりでは明らかに不十分です。そこで必要になる営業マンの役割は、お客様の代行です。お客様の代わりに情報を集めること、代わりに情報を整理すること、代わりに考えること、代わりに決断することです。
単に情報を集めるだけならば、インターネットに確実に負けます。だからこそ、営業マンは「こういう気持ち、意思、決意があって、この情報をお伝えしました」と答えられる情報提供を実行してください。
情報提供は継続しなければなりません。なぜなら、人間は忘れる生き物だからです。ただ、そう言いながら相手に忘れられたくない生き物でもあります。そのような点からも、相手とのコミュニケーションのエビデンスは確実に残してください。
営業コミュニケーションに求められる「話し方」
人を動かせる「話し方」
ここからは、話し方の注意点について解説します。
できる人の話し方の特徴をまとめました。できる人は話の目的が明解です。目的が見えない会話は辛いものです。会話の結論が100%想像できるのは物足りないですが、何が言いたいのか80%くらいは想像できる一方で、20%の新しい気づきがあるというのが理想的なバランスと言われています。そして、その結論は適切であるか、相手の興味のある話か、これまでやりとりした内容に関連した話か。自分の話し方を振り返って、これら6つのステップ全部に丸が付けられますか?
6つの特徴とあわせて知っておくべき話し方が「プレップ法」です。分かりにくい話をする人はよく「結論から話せ」と苦言を呈されますが、結論、理由、事例、結論の順番で話すと主旨がスムーズに理解されます。これが主張の基本フォーマットです。
たとえば、「私はカレーが好きです」というのは確かに結論ですが、脈絡なく言われても困ります。たとえば「今日お昼に何を食べようか相談をしたいと思っているのですが、私が食べたいのはカレーです。なぜならば~」といったような認識を合わせるコミュニケーションがなければ、結論は結論として機能しません。唐突なコミュニケーションにならないように、相手との会話の認識や前提の擦り合わせをした上で結論を伝える。この流れはぜひマスターしてください。
人間は正論だけでは動きません。感情、理屈、根拠、これらがセットになって初めて情報がメッセージに変わります。そして、感情、理屈、根拠を持ったメッセージが伝わる可能性を高めるには、どんな言葉を使えば良いのか、どんな順番で、どのタイミングで伝えればいいのか。言葉を間違えれば嫌われます。順番を間違えれば違和感が生じます。タイミングを間違えれば「なぜ今?」と疑問を持たれます。どんなに良い内容であっても、言葉、順番、タイミングを間違えれば、メッセージは相手にとって不快なコミュニケーションになるリスクがあります。
メッセージを伝えるために自分の言葉の訴求力を上げていくには、まず相手のことを知り、自分はどんな印象を持ったか、あるいは理解をしたのかを伝え、それを踏まえて私はこうしたい、こうなってほしいと伝えると良いでしょう。
営業コミュニケーションのPDCA
コミュニケーションにおいてもPDCAを回してください。「自分なりに」はNGです。自分が気分よく話すためのコミュニケーションをしてはいけません。相手が喜んでくれる、加えてストレスのない状態をいかに作るかがポイントです。その観点から、PDCAの前にRを入れました。Rとはリサーチ、調査です。相手を知るには、その人がアカウントを持っているならばツイッターやSNSが参考になります。それらを参照すれば、その人が普段どんな言葉を使っているのか、どんなものを見ているのかという興味の対象も分かります。その上で自分はどんな言葉を選ぶのか、どんなタイミングで伝えるか、そしてやってみた結果どんな反応だったかを確認してください。
営業には「みる」力が不可欠です。注意して、観察して、予測を立てて洞察する力が不可欠です。
そして、見ると聞くはワンセットで必須です。相手と自分では生きてきた世界が違います。つまり、様々な物事の定義が違うということです。定義を合わせなければメッセージは伝わりません。
先述の通り、メッセージを伝える順番を間違えれば印象は悪化します。BANT情報を確認するよう上司に指示されたからと言って、いきなりご予算はいくらですか? 決裁権はございますか? 導入時期はいつ頃でしょうか? と聞く人がいます。ニーズがないものに予算はありません。
ただ、最初に適切にニーズを確認して、「では、この問題や課題を解決するためにいくらぐらいのご予算が考えられますか? この金額から始めるならば、どなたかにご相談されますか? ちなみに、いつまでに弊社の商品を使えていないと〇〇様の目標の達成は難しいでしょうか?」というように、順番を間違えなければ相手は答えてくれます。いきなり「ご予算はありますか?」では印象が悪くなるのは必然です。
聞くタイミングを間違えないということと、相手のタイミングに合わせて伝えるべき情報を変えていく、関わる相手によって目的や関心も違うので伝える情報も変えていく。この点を忘れないでください。
これが、今回のテーマ「営業のコミュニケーションの基本」のまとめです。フローの最後は提案です。提案をしてください。商品やサービスを訴求することだけが提案ではありません。相手にとって必要な情報を提示することも一つの提案です。商品ではなく解決策と利益を準備する、機能を示す前に事例を準備する、そして会話のきっかけを準備する。今改めて、これらの準備を常に意識しながらコミュニケーションを行ってください。
変化のきっかけを提供する、そして相手の「会話をして良かった」を作る。これを意識することで、お客様にとって満足感のある商談、営業体験が実現できます。
余談になりますが、私は多くの学生さんとお話をさせていただく機会があるのですが、「営業が嫌いな人」は非常に多いと感じます。なぜそんなに嫌われているのかと考えると、良い営業マンに出会った顧客体験がほとんどないのです。
お花屋さんになりたいとかパイロットになりたいという子供はたくさんいます。それは、お花屋さんの店員さんが素敵だったとか、飛行機を操縦するパイロットが格好よかったといった顧客体験があるからです。営業マンは頑張っていてもその姿を一般の人が見ることはないので、ノルマがきついとか強引な勧誘をするといったネガティブな先入観で避けられているように思えます。
営業マンがお客様とお互いに気持ちの良い会話をする。その積み重ねを多くの方に届けることができれば、学生や若者たちに営業をやりたいという気持ちが生まれるはずです。お客様にとって「話せてよかった」「出会えてよかった」、そんな気持ちを提供できるコミュニケーションをぜひ目指してください。
質疑応答
初めての面談で、先方がすでに当社と類似しているサービスを導入している場合は、どのような情報提供やアプローチをするべきでしょうか?
どのような目的で今のサービスを導入したのか、期待した効果が得られているのか、変更の余地はあるのか、あればいつごろの予定か等を確認中です。
確認中の事項はもちろん大事ですが、現状利用しているサービスに満足していたら、そのようなことは教えてくれないかもしれません。そこで、今この状況で営業がやるべきことは、お客様が使っているサービスをより有効に使うための情報提供ではないかと思います。
わざわざ御社の営業マンとコンタクトを取ってくれたということは、契約中のサービスに何らかの不満があるか、もしくはもっとうまくできる方法を探している可能性があると考えられます。しかし、今のタイミングで「現状のサービスに不満はございますか? 切り替える予定はございますか?」と聞いても、相手には売り込まれているというネガティブな感覚を持たれるだけでしょう。それならば、困ったときや切り替えのタイミングで確実に声をかけてもらえる状況をいかに作るかが大事ではないでしょうか。
営業マンの仕事は、お客様を成功させることです。もちろん売上目標の達成という観点からは自社サービスへの切り替えをお薦めすることになりますが、お客様への貢献を考えれば、私ならまずは契約中のサービスをよりよく使っていただくためのアドバイスをします。
競合のことを悪く言うのは一番ダメです。ただ、競合のサービスに対してヒアリングするだけではもったいないので、お客様が契約中のサービスで成功するためのアドバイスをしてください。しかるべきタイミングで声をかけてもらえるように、第一想起してもらえるように、種まきをする。そんな意識で営業すると良いでしょう。
過剰な期待を持ったお客様は、割り切って関わらない方が良いのでしょうか? アプローチを変えるなどの働きかけはあまり効果がないでしょうか。
相手の期待を変えづらいのは事実かと思いますが、全く変えられないかというと必ずしもそうではありません。単なる思い込みの可能性もあるからです。簡単に手放してしまっては、せっかくのお客様がもったいないと思います。
私なら、他社の事例をベースにしてビフォーとアフターを伝えます。他社がどのような取り組みをしてどのような成果を出したか伝えた上で、相手がその成果では費用対効果が合わないという判断をしたならば、それで終わりで良いと思います。
しかし、相手の前提がこちらと違っている場合があります。弊社のサービスであるアポ獲得を例に取れば、平時の平均単価は約一万円です。以前、それに対してお客様は自分たちなら千円でアポが取れると主張しました。その理由は、そもそも自分たちの知り合いに声をかけていたからでした。それでは、外部の我々がお手伝いするのとは前提が違います。このような点を説明すれば、ご理解いただけるケースもあると思います。結局は認識が合うか合わないかなので、それを確認するコミュニケーションを取ると良いでしょう。
生命保険の営業をしています。随分以前の保障内容をお持ちのお客様の場合、今の医療の状況と合っていないため、保険金をお受け取りいただけないことがあります。先ほど、営業マンはお客様に「こうなってほしい」と伝えるとのことでしたが、この場合、「私は〇〇さんが 万が一の時に十分な保証を受け取っていただきたい」と伝えるべきでしょうか。
「どうなってほしいか」の伝え方ですが、このケースでこれを言っておけばOKというものはありません。ポイントは、お客様がこの商品に期待していることです。保険の営業なら、例えば「安心をご購入いただきたい」「安心の準備をしていただきたい」というトークで伝わる方がいれば、明確な保障の定義を話したほうがいい方もおられます。
お客様がお金を払ってこの保険に求めることは何なのか、それが実現できるかどうかを伝えるべきでしょう。実現できるのであれば、「この点は実現できます」「この点は正直足りないのですがここまではできます」といった伝え方をすると良いでしょう。
ただ、このトークは誰にでも当てはまります。そのお客様だけのためのトークではないので、その点では相手に刺さりづらいと言えます。このことを意識して、ご自身の話し方や話す内容を考えてみてはいかがでしょうか。
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5000人に見られる営業ロープレを経験してきました
この記事の監修者
株式会社営業ハック
代表取締役
笹田 裕嗣
営業代行事業を始め、「売れる営業組織」へと変革するためのあらゆる支援を行っています。
弊社独自のセールスメソッドを用いて、停滞する営業組織の改革から新規営業組織の立ち上げまでトータルでサポートいたします。今までご支援させていただいた企業数は100社を超え、主に中小・零細企業のあらゆる業種で成果を出し続けています。