「なかなか受注がいただけない」
多くの営業は、日々お客様からの受注=発注・依頼をいただくべく、邁進していると言っても過言ではありません。しかし、なかなかこのご依頼をいただくことができず、日々悶々としながら「何かチャンスはないか」「これをやったら発注が来るんじゃないか」と考えながら活動をしています。
受注確度、つまり受注がいただける確率を少しでも上げることができれば営業はもっと楽になります。またマネジメント管理をする側も、安心できる材料が増えます。営業成果をコントロールするためには、この受注確度を上げる施策が不可欠です。そこで今日は「受注確度を上げるための戦略」をテーマで解説していきたいと思います。
目次
そもそも受注確度とは何か?
受注確度とは簡単に言えば、自分が提案している内容で購入してもらえる確率です。
営業は当然ながら受注をいただきたくて営業をしています。営業はお客様の課題解決、理想実現のためという声もありますが、その支援を実施・継続させるためにはボランティアではないので、プロセスとして受注は必須です。また会社の事業を永続させるためにも、受注・売上は必須です。この問題は永遠に言われると思いますが、どちらかという話ではなく、営業として受注も課題解決も両方大事ということです。
ちょっと脱線しましたが、改めて受注確度=受注できる確率です。会社によっては「ヨミ」という表現をしたりします。私が新卒で入った会社では「案件の確度は?」と言われたり、営業支援先では商談確度という表現をしていました。どちらにせよ、商談・提案・案件が受注になるのか、確率を把握しておきたいということです。
受注確度はどんな時に使われるのか?
昔、私がいた職場ではこんな会話が飛び交っていました。
あの案件決まるの?
多分行けると思います
確度どのぐらい?
8割方、うちで決まる予定です
こんな会話が毎日のように飛び交い、月末に近づくにつれて回数が増え、口調が強くなっていく感じでした。
この会話、今振り返ると全く意味がなく、上司からも「口頭で良いから承諾取れ」「契約書早く巻いてこい」というようなやりとりになり、現場がどんどん疲弊し、嫌気がさして辞めていくというサイクルをぐるぐる回していました。
ただ勘違いしては、確度のチェック・進捗確認が悪なのではないことはご理解ください。大事なことは確認をしたら必ず次の対策(新規施策の策定・実行or戦略的放置(意図のある待機)がしっかりと決まっている状態になっていなければいけないんです。さっきの会話だと、結局次のアクションが決まっていないので、営業管理をしているようで実はしていない、気合と根性で売ってこいという状態になっています。
受注確度を正しく活用するために必要なこと
受注確度を正しく活用するためには共通の基準を持つ、シンプルにここです。
この写真の映像を車の運転中に見たら何をしますか?
当然ブレーキを踏んでストップしますよね。共通の基準とは「誰が見ても同じ認識が持てていて、そのためにやるべきアクションが明確になっている」状態を作ることが大切です。信号は赤だったら止まる、青だったら進むというサインが営業でも作ることができれば、営業活動はもっとシンプルにできるはずです。
では具体的に受注確度を上げるために大事な視点を考えていきましょう。
受注を再度定義する
受注=発注・依頼となりますが、ここをもう少し細分化して考えてみてください。
自分が何か営業に発注する時、どういった条件が揃っていますか?発注する=お金を払う決断をした時です。
様々な条件・視点があると思います。「提案された内容が自社の課題に合致していた」「金額的に1番安かった」「営業が信頼できる担当だった」などです。ただ1つではなく、全てが揃って初めて決断されるということを忘れてはいけません。
この画像にある通り、受注とは6つの合意と確保ができた状態です。
- ベネフィット:提供される価値(得たい成果が手に入れられる)
- モチベーション:提案された内容を実現したい・取り組みたいという意欲
- 信頼:会社・営業に対して成果を出してくれるという信頼感
- 予算:商品・サービスを購入するための金銭的体力
- 時間:商品・サービスを利用するための時間
- 人的リソース:商品・サービス利用に必要な関係部署との連携・協力や理解
合意とは営業側から商品サービスを利用するにあたって「どの程度のコスト・手間・負担が掛かるかを提示し承諾を得た状態」です。そしてもう1つ大事なポイントは商品・サービスを利用するにあたっての必要条件を確保してもらうことが大切です。口頭でOKはいただいたのに、結局失注になったというケースは、この確保がしっかりとできていなかった時に起こります。
そしてもう1つ大事なことは「順番」と「優先順位」があるということです。当然ですが提案している内容に対して価値とモチベーションがなければ、どんなに良い提案であったとしても前に進むことは絶対にありません。
受注確度を上げるためにはBANT情報をヒアリングしない
BANT情報についてはヒアリング力を格段に向上させるたった1つのコツと7つのアクションと4つの質問フレームワークの中でも以前お話をさせていただいたのですが、再度整理をしておきましょう。
- 予算:Budget
- 決裁権:Authority
- 必要性:Needs
- 導入時期:Timeframe
「営業ヒアリングではBANT情報が大事」という考え方が過度に浸透しぎてしまったために、とにかくBANT情報を聞き出すという営業スタイルのチームや営業パーソンが散見されます。
そして間違った使い方をしてしまうケースはこんな感じです。
ご予算はおいくらですか?
(え、いきなりだな)えっと、まだ決まってないです
そうですか。わかりました。
結構あるあるです。営業研修やコンサルティングで入らせていただいた若手営業の子と同行し、今日の商談の見込みはどう?と聞くと
予算がないと言っていたので、直近だと厳しいですね
という回答でした。
この問題点は2つあります。
- そもそもニーズ(やりたいこと)の合意が取れていないのに、予算を作るイメージを相手が持てていない状態で予算を聞いている
- 予算がないと言っているのではなく、わからないと言っているのに勝手に決めつけてしまっている
しかし、いきなり「ご予算は?」と聞かれてもすでに他社比較を始めている相手であれば別ですが新規でテレアポしている相手に突然聞いたところで、「そもそもいくらかかるモノなんですか?」と聞かれるのは当たり前です。こういった回答を受けると、ダメな営業は「ニーズがない」と勝手に判断して見込みから外してしまいがちなんです。
受注確度を上げるためのBANT情報の正しい使い方
受注確度を上げるためにはBANT情報をヒアリングしない
この意識は絶対に持つべきです。意識すべきことはBANT情報を一緒に決めていく、ディスカッションしていく意識です。大事なことなのでもう一度言います。
BANT情報をディスカッションする
ちょっと話は変わりますが考えてみてください。電機屋さんに洗濯機を買いに行くとしましょう。その時、何も決めずに買い物には行かないはずです。家電大好きという人以外、そもそも電機屋には足を運ぶ機会はほしいものがある時ですよね。この時の状態って「洗濯機が壊れちゃったから新しいのが欲しい」「家族が増えるから少し大きな洗濯機を見てみたい」「最近洗濯物の匂いが取れない」など、ニーズがあるはずです。
フォッグ式消費者行動モデルという人が行動する理論ではこのように書かれています。
「モチベーション」「行動障壁/実行能力」「トリガー」の3要素が揃うと消費者は行動するという理論
これを式に表すと「行動=動機(モチベーション)×行動・実行能力×きっかけ(トリガー)」です。
つまり、洗濯機が壊れた、家族が増えた、匂いが取れないというきっかけがあり、動機が生まれた状態です。ここにニーズがあります。つまり、人が行動を起こすときは必ずニーズが先行してあるということです。そして、ニーズがあるから思考が生まれます。「予算はいくらぐらいにするか」「誰に相談しようか」「いつまでに必要か」ここがまさにBANT情報です。
つまり、ニーズがある程度固まったら、買い物をする上で必要な条件をどんどん固めていくと思います。一方でここはバランスも大事になる部分です。
お店に行く前は
予算は7万円以内にしよう
と思っていたとしても、店員さんから機能や効果などを聞いたら
ちょっと高いやつの方が長い目線で見たら良さそうだから、10万円のこれにします
とか普通に起こる会話です。法人営業であれば「予算消化時期」が存在するのは事実で、予算が確定しているというケースもあります。しかし、基本的には買い物をするときはニーズを実現するため行われます。この前提で営業をすると、BANT情報はニーズを一緒に整理し、優先順位を決め、その最適な方法を予算や社内の相談する相手の意思決定基準等を考慮しながら固めていくことが大切です。
ディスカッションをする目的を整理するとこうなります。
- お客様が持っていない情報や視点を提供することで、思考の質を高める
- 思い込みがないかを深掘りすることで整理し、最適な解決手段を導き出す検討の質を高める
- 複数の選択肢の中からベストな決定ができるよう決断の質を高める
ディスカッションの直訳は議論です。これがディベートになってはいけません。ディベートは結論が決まっていて、自分の主張を納得させるコミュニケーションです。営業においては「受注」というゴールが決まっており、「買わせる」という主張が一貫してしまっているとディベートのようなアプローチになってしまいがちです。しかし、お客様はまだどこに依頼するかだけでなく、買うか買わないかですら悩んでいる状態で、いきなり営業がゴリ押ししても決まらないのは必然です。
営業は説得ではなく納得が大事というのもまさにここがポイントです。また心理学的にも「心理的リアクタンス」という人は強制されるとやりたくなくなる心理が働くので、お客様がどんどん自分の意図した方向から離れていってしまうのです。
ディスカッションの意味はこれです。
あるテーマについて、参加者たちが自由に意見や情報を出し合いながら、より良い結論へと導いていくこと
ニーズが固まった時とは、まさにディスカッションにおけるテーマが決まったという状態です。まだスタート段階であるということを忘れないでください。
営業ディスカッションのコツ①結論は状況によって変化する
先日、こんなツイートをしました。
売れない営業は顧客の声を永遠に信じてしまう。「予算は1000万円で」と最初に言われたら、1000万円以内でできることばかりを考えてしまう。しかし、予算もニーズも状況や組み合わせによって変わる。顧客の声が変わるという前提を持っておかないと、提案の質は上がらないので要注意、
— 笹田裕嗣@営業の知恵袋 (@sasada_36) January 27, 2022
この視点は非常に重要で顧客の結論は常に変化する生き物であるという認識は必須です。これは当たり前で、自分のビジネスや仕事、生活をより良くするために、相手も日々情報のシャワーをたくさん浴びています。情報が増えれば、思考の幅も広がり、どんどん決断の基準も明確になっていくはずです。営業は常に相手の最新情報を確認する意識が不可欠です。
つまり、ここで大事にしなければいけないことは、優先順位と基準と幅を確認する意識です。
優先順位
今回、何かを取り組むにあたってやりたいことを全て洗い出します。その上で、重要度が高いものを整理することが大切です。
基準
判断基準、選定基準です。成果報酬型のサービス以外は基本的に先行投資です。成果報酬型のサービスであっても、サービス導入に際し、時間的コストや人出、手間を払うので無料ではありません。その時間、お金を費やすと判断するにあたって、何をポイントで見るのかを整理します。
幅
予算は「〜〜円」となったとしても、ちょっと付け加えたら豪華になるという形で、予算は確定後も前後するケースは多々あります。つまり、予算においても「最大どこまで出せるのか」というラインを確認しておくことで提案の幅が広がるのです。もちろん現状いくらぐらいの想定か等も確認しておきましょう。
営業ディスカッションのコツ②比較は必ずされる前提で会話をする
現代社会は情報が溢れかえっています。今、この時も人は何かの情報に触れていると考えた方が良いですし、商談中でさえ相手は何かを検索している時代です。
つまり、情報を隠して自分に都合の良い状態で会話をしようと考えれば考えるほど、相手は自分の主観で検索を重ね、自分の都合の良い情報(=自分の考えに沿った情報)を集めていると思ってください。これは心理学でいう「確証バイアス」と呼ばれるものです。さらに情報を隠せば隠すほど、相手から信頼もされません。「聞いてない」「言われていない」が増えれば増えるほど、相手は不安になりどんどん検索をするからです。
現代の営業の敵は他社の営業以上にSNSを含めたインターネットです。一昔前は情報力=営業力の時代がありました。しかし、今は情報アクセスが非常に容易なため、情報力だけでは営業の武器にはなりづらくなっていることも事実です。
営業が提示すべきは情報ではなく、「情報の見方」と「情報の判断基準」です。
営業ディスカッションのコツ③情報を伝えるときに付加価値をつける
ネットで転がっている情報をただ伝えるだけなら、そこにヒト=営業が介在する価値は生まれません。営業は常に”わざわざ自分が関わる理由”を考えることが必要不可欠です。
情報価値については有益な情報とは何か?ぽい情報の特徴3つと本当に有益な情報のポイント6つでもまとめていますが、特に下記4つの情報における付加価値は意識してください。
ネット情報でもその情報に対して自分がどう介在するかを是非意識してみてください。
受注確度を上げるとは受注状態に近づけること
ここまで営業に必要なコミュニケーションについて解説をしてきました。もうすぐ終わりです。
再度質問です。受注とは何でしょうか?
そうです、受注状態とは「ベネフィット」「モチベーション」「信頼」「予算」「時間」「人的リソース」の6つに対して「合意と確保」をしていただくことでした。
この視点から受注活動とは、日々のコミュニケーションの中で「ベネフィット」「モチベーション」「信頼」「予算」「時間」「人的リソース」を積み上げ、最終的に形として契約書を回収させていただくことです。
これを同時に一度にやろうとするから営業の難易度が上がるのです。受注確度を管理するとは、正しくこの6つの合意と確保が案件・お客様ベースで進んでいるかをチェックすることです。イメージは下記です。
〜電話問い合わせ〜
①ベネフィット発生:お客様から「〜〜をやりたい」というお問合せをいただいた
②ベネフィット合意:電話でアポイントを打診。問い合わせ内容に対して認識合わせを行い、口頭で合意
〜初回商談〜
③モチベーション合意:商談を実施。社長からの指示で”やらなければいけない”状況になっていることを確認
④予算合意:商談にて「今回は多少コストををかけてでも◯◯したいということですね?」という問いに合意
⑤金額感合意:自社の金額感・金額幅を提示し「検討の範囲内」という回答回収
⑥信頼確保:再度提案したいという約束を提示し、次回アポイントの日程合意(複数回会える関係性の構築)
〜2回目商談〜
⑦ベネフィット・モチベーション再合意:前回商談内容からニーズの再確認を行い、合意
⑧時間・リソース合意:提案を実施。必要リソースを提示し、「これであればできる」と回答をいただく
⑨予算合意:最終的に必要額・金額の提示を行い、検討範囲内と回答
⑩信頼確保:社内で再検討いただけるという回答をいただき、回答期日の確定
〜フォローアップ〜
⑪信頼確保:電話での連絡に対し、折り返しのご連絡をいただく
⑫契約締結=「ベネフィット」「モチベーション」「信頼」「予算」「時間」「人的リソース」の合意と確保
ここでは非常にスムーズにいった例を書きましたが、合意を積み重ねていくことで、最終的には「ベネフィット」「モチベーション」「信頼」「予算」「時間」「人的リソース」をお客様に全て揃えていただいた状態が作れたので契約に至ったという流れですね。
いきなり予算が確保されていることは稀です。ニーズもフワッとしています。PUSH型営業であれば信頼なんてありません。しかし、1つ1つのアクションの積み重ね=6つの合意獲得活動と捉え、営業を進めていく=お客様との関係を前に進めていけば成果に繋がります。
受注確度は営業のネクストアクションの明確化と同義になっていなければいけません。このことを意識して正しく受注確度を使ってください。
受注確度を上げるための戦略や考え方は動画でも解説しました!
▼YouTubeでも発信しています。
他にも有益な情報発信を続けておりますので、見てくださいね。
【売上驚異の2倍!】受注確度を改善するコミュニケーションとは? – YouTube
▼もし失注してしまったときは向き合い方も大切です。ぜひそんな時の対策で悩んでいるときはこちらの記事もチェックしてください。
売れないとちゃんと向き合えば営業は変わる | 営業ハック
この記事の監修者
株式会社営業ハック
代表取締役
笹田 裕嗣
営業代行事業を始め、「売れる営業組織」へと変革するためのあらゆる支援を行っています。
弊社独自のセールスメソッドを用いて、停滞する営業組織の改革から新規営業組織の立ち上げまでトータルでサポートいたします。今までご支援させていただいた企業数は100社を超え、主に中小・零細企業のあらゆる業種で成果を出し続けています。