今回は商談のストーリー設計についてお話をさせてください。
前回の記事では、商談前の準備について解説させていただきました。
▼商談前の準備解説はこちら!
今回のストーリー設計は、商談自体というよりは、受注獲得にむけての全体の流れを解説していきます。この流れを理解することで、商談自体もスムーズに進めることが可能です。最後まで是非お付き合いください!
▼商談に当たるためのリスト作成&アポ取得の仕方についてはこちらで解説しています!
目次
ストーリー設計とは?
ストーリー設計。あまり意識したことのない方もいらっしゃるかもしれません。まずそもそも、ストーリー設計はなぜ必要なのでしょうか。
ストーリー設計が必要な理由
一言で言うと、「運よく受注をいただけた」以外の受注を増やすためです。言い換えるなら、自分たちなりの「勝ちパターン」を持っているかという点になります。この勝ちパターンの有無は、私がコンサルティングや研修をさせていただく際には必ず聞く質問です。なぜ勝ちパターンが必要なのか。要は、自分が何をやれば成果を出す確率が高くなるのかということが見えていなければ、お客様に、自分のストーリーに入っていただくことが難しくなるからです。
ストーリーを持てていない営業は、「今すぐ客」からしか受注をもらうことが出来ません。すぐにお金を払ってでも課題を解決したい人に出会わない限りは、受注をいただけない確率を自ら高めてしまうと言えるでしょう。
相手もその業務だけに終始しているわけではありません。他の業務もあれば、プライベートとなる家庭や趣味だってあるはずです。相手は、1日24時間のうちの一部の時間だけで、その問題について考えています。寝る間も惜しんでその問題だけ考えているなんて人はまずいないでしょう。
- 「いつかはやらなきゃいけないのは分かってるけど」
- 「後々必要になるかもしれないけど、今じゃない」
こういったお客様に対して、どういった形でモチベーションを高めていき、重要度の高さに気付いてもらうのかということを考える必要があります。
2回目以降のアポイントがいただけない営業の多くはこの壁に直面しています。結局のところ、「どんな人に、何を実現していきたいのか」というストーリーがないがゆえに、お客様も受注後の具体的な想像が出来なくなってしまうと言えるでしょう。
一番人が積極的に行動するのは、「心が動いたとき」です。理屈で人を動かすことは至難の業。「早く宿題やっちゃいなさい」と親から言われたら、「うるさいな」と反発したくなるのと同じです。心理学で「心理的リアクタンス」という言葉でも証明されており、正論を振りかざすほど相手の心は離れていってしまいます。
つまり、人間の感情と向き合ってビジネスや仕事をしていかなければ、相手の行動を引き出す(営業における成約)ことは難しくなるということです。
なぜストーリーなのか
「ストーリー」があることで、人の記憶に残りやすくなることがストーリー設計をすることによる最大のメリットです。
例えばドラマや映画。感動するストーリーの作品が多くありますよね。ただ、物語の要点を箇条書きにして見せたところで、相手は感動しないでしょう。なぜなら、背景や文脈が理解出来ないからです。
つまり、必要性を感じさせるには、相手に情景を思い浮かべる必要があると言えます。ものすごく賢い人であれば自ら想像してくれることもありますが、ほとんどの人が自ら勝手に想像することはないのです。
- 想像できる情報
- 想像できる伝え方
これがセットでなければならないのにも関わらず、必要最低限の情報しか相手に伝えていないがために、相手は買ってくれないと言えるでしょう。
そもそも必要最低限の情報であれば、わざわざ営業に会う必要はありません。資料をダウンロードして、自分で資料さえ見ればそれで十分です。そこに対して、
- なぜあなたなのか
- なぜこの会社なのか
- なぜ今なのか
ここを鮮明にさせてあげるのが営業の正しいかかわり方です。これを自ら放棄して、最低限の情報だけ伝えるなら、相手が買わない選択肢をとるのは必然です。「要らないから買わない」のではなく、「分からないから買わない」という状況が生まれてしまうのは得策ではありません。
1度の商談で何とかしようとしすぎない
1度の商談で全てを相手に想像させられるかどうかは商材による部分もあります。どう足掻いても1度の商談では難しい商材があるのも事実です。その場合、複数回、定期的にコミュニケーションをとることによって道は開かれていきます。どれだけの頻度でコミュニケーションをとるのか、どれだけ関われば相手が「今すぐ必要だ」と考えてくれる状態になるのか。ここを考えて、ストーリーをたてておくと、営業における勝ちパターン、「再現性の高い状態」を作ることが可能になります。
具体的に必要なステップ
受注までのストーリー設計は、大きく6つのステップに分類可能です。
商談のストーリー①モチベーション
興味が持てないものに対して、わざわざ導入をしようとする担当者はいません。単に仕事が増えてしまうだけだからです。何かを買う=手続きが増えると言えます。事務手続きだけでなく、上司の承認や、周囲の理解を得ることも必要です。法人営業は、関係者が複数いる以上、導入に向けての仕事が煩雑化します。
つまり、「仕事を増やしてでもやりたい」そう思える理由を準備しておくことが必要だと言えます。この理由作りをしたうえで、相手が受け入れられる形に変えていくことが重要です。
商談のストーリー②課題の明確化
何が課題かよくわかっていない。そういうケースは多くあります。「多分大丈夫だよ」「そこまで考えたことなかったな」というようなパターンです。
なぜこの商品があなたに必要なのか、ここを伝える上で根幹をなすのがこの課題部分です。この部分を明確にしておく必要があります。
商談のストーリー③予算の確保
当然のことですが、お金がなければ買い物は出来ません。どこまでお金を出すことが出来るのか、どこで準備をするのか、いつまでに準備が必要なのか。こういった金銭面の問題も解消しておく必要があります。
商談のストーリー④関係者の整理
誰が決裁に関わるのか。誰が商材の利用に関係するのか、隣の部署はどうだろうか、役員の方はどうだろうか…と言った部分を明確に整理しておくべきです。この部分を把握するために助けとなるのが組織図。「組織図は必ずチェック」とよく研修やコンサルティングでお伝えしています。公表している会社であるなら、「ここが関係してきそうだな」「決裁の際はここを通さないといけなさそうだからここが壁かもな」といった形で整理をすることが可能です。
商談のストーリー⑤決裁フローの確認
関係者の整理をすることで、決裁フローを確認することが可能になります。
BANT情報という言葉を聞いたことのある方は多いかもしれません。
- 予算(budget)
- 決裁者(authority)
- ニーズ(needs)
- 注文時期(timeline)
これをもとに営業先の見込み度合いを判断するための営業のフレームワークです。このなかの「決裁者」の部分になります。ただここにおいて大事なポイントは、「誰が決めるか」ということではありません。それよりも、「どうやって意思決定をされるのか」ということが重要です。
「私が決裁者です」仮に目の前の担当者がそう言っていたとしましょう。例えそうであったとしても、その決裁者が「周りと相談して決めます」ということであれば、周り全員が決裁に絡むことになります。それはもう決裁者はチーム単位であると言えるでしょう。
このようなことがあるため、どうやって意思決定がされるのか確認しておくことが必要だと言えます。
▼BANT情報についてはこちらの記事が参考になります!(外部記事)
商談のストーリー⑥承認をいただく
ここまでのストーリーを踏まえて、最後に承認をいただく段階までつなげることが可能です。この6つのストーリーをちゃんと設計しておくことが必要になります。これがなければ、買うという決断にはなかなか至りません。
繰り返しになりますが、1度の商談で全てを行おうとすべきではありません。繰り返し商談を重ねることで、信頼関係は構築されていきます。比較的お客様のリスクが少ない完全成果報酬型などの商材は1度の商談で決まるケースもありますが、固定報酬型であったりすると、短期的な商談で全てを決めるのは不可能です。
こういった商材の内容や形態によって変わる部分もあることを意識いただければと思います。
商談から受注まで:最短ステップの期間
決裁フローを飛ばして最短で受注をいただきたい。
こう考える営業もいます。そうなったときにまず大体の人が行うのは、「社長営業」でしょう。社長であれば全てを決められるはずだから社長に営業したい、その気持ちは理解できますし、確かにその通りです。
ただ一方で、全てを決められるということは、止める判断もいつでも可能であるということを念頭に置く必要があります。これは裏を返せば、意思決定の際にかかわっている人が多ければ多いほど、後から止めづらくなると解釈することが可能です。
受注がしやすい=相手も後から止めやすい
この傾向が存在することは覚えておくべきだと言えるでしょう。営業の最終ゴールは受注ではなく、会社に利益をもたらすこと&お客様に価値提供をすることです。このことを踏まえて、即断即決できる相手に営業することが本当に効率的か、是非自問していただきたいと思います。
受注獲得までのプロセスを最適化したからといって、顧客への価値提供と会社への利益提供が必ずしも効率的になったとは言えない点は忘れてはいけません。
業界別の受注までの期間
私が経験して来たものから、受注までの大体の期間の目安をご紹介していきます。
人材紹介業
私が実際に稼働していた業種です。人材紹介業や人材派遣業は成果報酬型が多い傾向にあります。「入社したらいくら」という形です。初期費用がかかからないため、3回の訪問が成約or失注の1つの目安となります。
広告系
広告系の商材も、およそ3回程度の訪問が目安となります。Webマーケティングから、求人広告といった媒体への掲載に関しては、あまり期間が長くならない傾向にあります。
期間が長くかかる商材は?
一方で、社内システムの改修や、コンサルティング、新たなツールの導入といった、社内で関わる人が多い商材については受注までの期間が長くなる傾向があります。目安は半年~1年。場合によっては1年以上かかることも念頭に置くべきです。実際受注までに3年かかったというケースも存在しました。システムの一新に5年を要したという話も聞いたことがあります。増してや大企業への営業であれば、必然的に関わる人が多くなるため、意思決定の時間も長くなるでしょう。
期間が長くなる商材の場合、この長期間の間にどのようなコミュニケーションをとっていくかが非常に重要になります。どのように受注に向けてかかわりを持つのか、そのストーリーは考えておく必要があるのです。
「とにかくひたすら営業すればいつかは受注になる」こう考えるべきではありません。もちろん行動を起こさなければ成果につながらないのは事実です。ただそれを運任せにはしないことが大事なポイントになります。「いつか売れたらいいな」という気持ちで営業をするのではなく、「この相手にはこのタイミングで受注をいただけるように」という逆算思考とゴール設定を行うことが必須です。
例えば、マラソン走者は自分の走るペースのことを考えているはずです。42.195㎞をこのタイムで走りたいから、半分時点ではこのくらいのタイムが出せるようにしておくべき……といった具合かもしれません。ゴールが決まっているからこそ、自分のペース配分や、中間地点での遅れをどこでリカバリーするかなどと、算段を立てることが出来るのです。
いつかではなく、「このタイミングで」いただける受注を探していくようにしていきましょう。
必ずしも成約率だけを追い求める必要はありません。そうなると、失注が悪となってしまうからです。失注を悪とする企業は多いですが、実は失注率が上がること自体はOKだと私は考えています。なぜなら、何がダメだったのかお客様のフィードバックをもらうことが出来るからです。
どうしても受注が欲しいお客様がいるなら、何度も失注をして、フィードバックをもらいましょう。当たり障りのない、「検討します」というコミュニケーションにはならないようにしてください。はっきりYes、Noをもらった方が次に繋がります。
複数回の商談時にやるべきこと
設計したストーリー通りにいかない営業の多くが、2回目以降のアポイントをいただくことが出来ないことを理由にしています。
これには明確な原因があります。それは、
- 1回目の商談で全てが分かってしまった
- 期待するポイントが無くなってしまった
からです。言い換えれば、「会う価値がもうない」と思われてしまったからだと言えるでしょう。会う価値をいかに作り、提供し続けていくのかを考える必要があるのです。ここで役立つ1つのアクションが、「宿題の設定」です。
以前、営業ツールの会社から営業を受けたことがあります。その営業からは、3回目の商談まで提案がありませんでした。それまで、営業ツールを正しく活用していくにあたって、どんなことを考えていかなければいけないのかを一緒に議論していたのです。その議論の内容を踏まえて、「ここまでお話した内容は全て我々で実現できますので、具体的な提案をさせて下さい」としたのが4回目の商談でした。
この営業は、「確実に売るためには、何の情報をそろえる必要があるのか」という点を吟味していたのです。逆に言えば、その情報がなければ商材を提案しても売れないという判断を自らしていたことになります。
商談のストーリー設計において最も重要なのは、明確なタイミングを決めて、そこから逆算して考えることです。逆算して考えるためにはゴールをまずは決める必要があります。このお客様から、このタイミングで、この金額・提案内容で受注をもらうにはどうしていけばいいか。この点を意識して考えていただきたいと思います。
▼動画でも解説しています。他にも役立つ情報を発信しているので、ぜひご覧ください!
この記事の監修者
株式会社営業ハック
代表取締役
笹田 裕嗣
営業代行事業を始め、「売れる営業組織」へと変革するためのあらゆる支援を行っています。
弊社独自のセールスメソッドを用いて、停滞する営業組織の改革から新規営業組織の立ち上げまでトータルでサポートいたします。今までご支援させていただいた企業数は100社を超え、主に中小・零細企業のあらゆる業種で成果を出し続けています。